1300年の歴史をもつ伝説に彩られた寺。
雪野山の南山麓にある龍王寺(りゅうおうじ)は、当初、平城京遷都の年である710年に僧行基によって「雪野寺」として開かれました。創建1300年を超えた天台宗の寺院です。奈良時代から平安初期にかけて、千の坊、千人の宗徒があり隆盛を極めたと伝わります。本尊は医を司る薬師如来であり、毎年中秋には喘息の病をヘチマに封じ込める「へちま加持祈祷」が行われます。
国の重要文化財である龍王寺の梵鐘は、開山60余年後に、現奈良県の住人・小野時兼が寄進したとされます。高さ1.16m、簡素なつくりのなかにも優美な竜頭(りゅうず)を持つ釣り鐘です。本堂が火災に遭ったときに鐘堂から水を噴いたとか、心がけのよくない人が撞いても鳴らないなど、不思議な言い伝えが残っています。
梵鐘にまつわる悲恋物語。
雪野寺は地域の信仰が篤く、干ばつの時には梵鐘に雨乞いをすると雨に恵まれるなど、霊験あらたかな梵鐘として知られていました。このことが時の天皇の耳に入り、「龍寿鐘殿(りゅうじゅしょうでん)」の直筆の額を賜ったことから、寺号を龍王寺に改めたといわれます。現在、梵鐘の龍頭は、つねに白い布で覆われています。この布をはずすと大雨が降ることがあり、雨乞いの時以外は決して龍頭をあらわにしないのだとか。
そしてもう一つ鐘にまつわるものとして、小野時兼と美和姫の悲話物語が伝わっています。大蛇の化身だった美和姫を想う時兼が、託された玉手箱を開けると中から龍が刻まれた梵鐘が出てきたというもの。これが、時兼寄進の梵鐘と伝わります。また大蛇になった美和姫が姿を消した沢の水は真っ白に濁り、それが龍王寺の「白水の池」につながっているといわれます。多くの伝説が残されている山里の寺です。